[第10回蘇州最新経済リポート]
中央経済工作会議報告からみた中国経済


著者:上場 大

もくじ 

1.三つの圧力

2.個人消費の減退

3.サプライショック

4先行きの不透明感晴れず


はじめに~辛丑(かのとうし)を振り返る

 2021年の干支は「辛丑」でした。「辛」という漢字は、刺青に使う針を表しており、つらい、からい、ひどい、といった身体的な苦痛を表すとのことです。また、「辛」は十干の金行に属し、季節に例えれば秋の終わりごろにあたるそうです。つまり、「辛」は、痛みを伴いながらゆっくりと衰退していくと読めそうだ。一方、「丑」は十二支の二番目です。この漢字は、手の指に力を込めて曲げた状態を表しています。捻る・曲げるという意味に加え作業の準備段階も表していることから、開始するという意味が派生しました。また、「辛」「丑」の二つは「土生金」という「相生」の関係にあります。「相生」は、それぞれの力を生かし、強め合う関係です。

 つまり、痛みを伴う衰退の中、新たな息吹が生まれている、という意味に解釈できるのではないでしょうか。「相生」の関係は、痛みや衰退が激しいほど、大きな希望が芽生えるというものだそうです。更に、納音でみると「辛丑」は「壁上土」であり、壁の上に塗られた土のように地道で堅実、不動の精神力を表しています。二十八宿でみれば「辛丑」は「觜宿」にあたります。この意味は「稽古始め、運搬始めに吉、造作・衣類着はじめが凶」とのこと。つまり、新しい稽古事をはじめたり、建設のための資材を運ぶのは良いのですが、そのために衣類を新調したり、工事に取り掛かったりするのはまずい、という意味のようです。右往左往せず地道に次の準備をしつつ、実行の時期を待て、と解釈することもできるかもしれません。干支は古代中国で生まれた陰陽五行に基づきますが、このように見ると、昨今の中国や世界の情勢とも符合するところも少なくないように思えます。

 今年は、一旦制圧に成功したかに見えたコロナ禍が、夏のデルタ株感染者発生以降、各地で少数の感染者が発生し、まるでモグラたたきのように、封じ込め策が取られました。千年に一度といわれる河南省鄭州の特大暴雨、秋口の山西省豪雨といった自然災害も猛威を振るいました。チベットでは大規模な山火事も発生しました。雲南省では双版纳の自然保護地区から北に向って象が逃げ出し、千キロ近い漂流を続け話題を集めました。地球温暖化による気候変動が背景にあることは間違いないでしょう。そして、昨年から続く半導体不足はマレーシアでのデルタ株蔓延、台湾の旱魃、日本での火災、アメリカでの水害などにより解決の目途はまだ立っていません。この結果、自動車生産は7月以降5カ月連続前年割れとなっています。さらに、秋口にはエネルギー不足問題が顕在化しました。沿岸部の工場は操業短縮を余儀なくされ、アルミやマグネシウムといった電力多消費産業の中には、この年末まで操業を停止する企業も出ているようです。中国経済の回復・拡大のモメンタムは弱まっており、第三四半期のGDP成長率は4.9%に低下しました。ただ、通年では、前半の高成長の「貯金」もあるので8%程度に収まる見込みです。

 「腰折れ感」のある中国経済ですが、新しい息吹も感じられるようになっています。「豊かで美しく強靭な中国の建設」が、本格的に動き出したように感じます。まず、共同富裕社会に向けての布石が打たれました。8月以降、双減政策が導入され、塾通いは原則禁止になりました。この目的は一義的には学校内外での生徒・児童の学習負担を軽減することを目的にしていますが、最終的な目的は、貧富の格差の是正にあるのではないかと思います。裕福な家庭は月に何万元もかけて子供を塾に通わせることができますが、どこの家庭でもできるものではありません。多額の教育費をかければ、一流大学入学や海外留学の道が拓け、高い収入を得ることができる職業に就く可能性も高まります。こうして富裕層が再生産されるわけですが、この流れを是正するという目的もあるのではないかと思います。北京大学国家発展研究院院長の姚洋院長・教授は、共同富裕の核心は公平な教育だと主張しています([i])。

 次に、海外での株式公開に対する管理を強化することによりスーパーリッチの誕生を抑制し、その代わり香港や深圳、上海、11月に開設された北京の証券取引市場での上場を後押しすることにより、国内企業業績の果実を自国民に還元できるようにする仕組みづくりも模索されるようになりました。これによって、家計資産を従来の不動産(約6割)と現預金(2割)という高いレバレッジ構造を変えるのが目的ではないかと思われます。第三に、劣悪な待遇が問題となっている1千万人を超える配送員の待遇改善も図られるようになっています。周旋屋経由で就業した場合でも、正規雇用とみなされ、社会保険が付与されるようになりました。非正規雇用の配送員の配送中の事故を労災と認定したのは蘇州市吴中区人民法院です([ii])。最後に、債務問題に揺れる不動産業界ですが、不動産開発業者に対する規制強化は、住宅価格の高騰を抑え、一般庶民でも住宅を購入しやすくするという目的もあることを忘れてはならないと思います。

 今年、次々に打ち出された施策は、欧米先進国、とりわけその代表格であるアメリカが抱える問題を踏まえたものと言うこともできるかもしれません。所得と富が世代間に亘って移転される中で、貧富の差が極端なまでに拡大し、社会の分断が起こっているアメリカの轍を踏まないという党・政府のメッセージでもあるのではないでしょうか。ただ、足元の経済状況は決して予断を許しません。


1.三つの圧力

 12月8日から10日かけて北京では中央経済工作会議が開催されました。これは、党・政府が翌年の経済政策運営の基本方針を決めるために毎年12月に開催されるものです。主催するのは習近平総書記・軍事員会書記・国家主席です。昨年の会議は、コロナ禍を制圧し、経済をV字回復に導いた勝利の雰囲気に満ちていましたが、今年は、それが一変しました。来年の経済運営において何よりも優先されるのが「安定」であるとされ、それを揺るがしかねない3つの圧力が中国経済にのしかかっているという認識が示されました。①需要の減退、②供給への打撃(サプライショック)、そして③先行きの不透明感です([iii])。従来にない厳しい認識と言えるでしょう。

 需要の減退は、今年の9月に発生した不動産開発ビッグ5の一角恒大集団の債務不履行問題と、それと相前後して起こった大手不動産開発業者の債務不履行により、中国経済の柱のひとつともいうべき住宅用不動産市場が大きく冷え込んだこと、「ゼロ・コロナ政策」により、各地で感染者が発生するたびにロックダウンが行われた結果、個人消費に水が差されたことによるものといえます。不動産開発業界は、昨年7月に政府が通達した「三条紅線」という財務指標に基づく借り入れ規制により、かなりの企業が厳しい資金繰りに直面しています。大手不動産開発業者もその例外ではなく、恒大集団以外にも華夏幸福、佳兆業集団、当代置業、陽光城、中国奥園、花样年といった名だたる企業も、債務返済の遅れを発生させています。恒大集団の場合、今年返済遅延に陥ったのは利払いですが、来年からは社債の元本の満期が続々と到来します。

 このため、恒大集団に限らず、多くの不動産開発業は、手持ちの物件の処分を加速し、資金繰りに充当しようとしています。深圳市では、マンション購入者にベンツかテスラをおまけにつけるというプロモーションまで始めた開発業者も出ましたし([iv])、恒大集団も重慶市などでは3割引きでの販売を開始しています。しかし、価格の行方が先行き不透明なので、値下げしたからといって売れるような状況にはないようです。しかも、全国21都市では、政府が不動産価格の暴落を防ぐため、値下げ状況を厳しく監視するようになっているので、値下げしたくてもできないという状況も生まれています。江蘇省鎮江市は、同じ物件の場合、前期比の販売価格の95%までの値下げしか認めないという指導を11月から開始しています。このいわゆる「限跌令」を出しているのは、物件の在庫が多い三四線都市が多いようです([v])。このため、住宅販売の掻き入れ時といわれる「金九銀十」の販売は例年の半分以下という散々な結果となりました([vi])。不動産開発売上上位百社の販売金額の伸びもつるべ落としで減少しています([vii])。1-10月の累計売上が前年同期を上回った企業は、売上1千億元以上の大手32社中、6社に過ぎません。この結果、多くの都市の住宅価格が前年割れの状態になっています。


2.個人消費の減退

 消費の減退も目立ちます。コロナ禍の中で、ネット通販が大きく伸びましたが、それにも陰りが出ています。11月11日の「双十一節」は、阿里巴巴の天猫が開催する通称「おひとり様向け大バーゲンセール」で、毎年、売上最高記録を更新してきました。今年も売上は5,403億元と過去最高となったが、伸び率は8.45%に留まりました。業界二位である京東の売上の伸び率は28.5%でしたが、これも前年の伸び33%を下回りました。ネット通販の拡大も息切れしているといえます。

 消費が伸び悩んでいる理由は3つあると思います。まず、雇用情勢が依然として厳しい。とくに若者の就職難は前年からは改善したものの、2019年の状態にまでは回復していないようです。政府は雇用対策もあって、2022年採用の国家公務員の採用人数を前年の2.4万人から3.1万人に増やしましたが、応募者数は142万人に上り、倍率は46倍と前年の40倍を大きく上回りました([viii])。厳しい雇用情勢の中、安定した職を求める若者が増えているといえます。次に、左記を背景とした若者の「ネット消費疲れ」もあると言われる。ネット通販業者に煽られて買いまくるという若者も減ってきたようです。「ほっといてくれ」という態度なのかもしれません。微信では「消費逆行主義小組」というサイトが開設され、盲目的消費を辞めよう、無駄遣いは止めようというキャンペーンも行われ、30万人がこれに賛同したといわれます([ix])。また、消費者保護局のキャンペーンも効果を及ぼしています。双11節前、消費者保護協会は、このバーゲンセールの出品店が繰り出す様々な手口や、トラブルの実例を紹介しました。割引率を大きく見せるために定価を引き上げたり、おまけの商品が危険な欠陥商品だったり、もはや当たり前になっている予約販売においてキャンセルを認めなかったりといった事例が紹介されました。消費者保護協会は「騙すな、煽るな、ぼったくるな」という強力なメッセージを出品店に発し、取締を強化する姿勢を見せました。これが消費者の意欲を一定程度削いだのではないかと思います([x])。

 双十一節の低調さだけでなく、消費全体も低調さを増しているようです。消費全般についてみれば第三四半期でも前年同期7%を超える伸びが観られるが、これが、売上2千万元以上の企業・卸売り業、同500万元以上の小売り業、200万元以上の飲食業における消費を見ると、9月の消費の伸びはわずか1.8%に留まっている。ショッピングセンターやレストランチェーーンなどでの消費が相当手控えられていることが伺われます。


3.サプライショック

 コロナ禍からの逸早い中国の回復は、世界的な一次産品の需要拡大をもたらしました。しかし、生産国の多くはコロナ禍からまだ十分に回復していないので、需要に供給が追い付かない事態が起こった結果、今年に入ってエネルギーや一次産品価格の上昇が顕著となっています。エネルギーについて見れば、中国はカーボンニュートラル実現に向け、GDP成長率単位当たりのエネルギー消費の削減目標を毎年定め、地方政府に対し、年間の電力消費目標を設定しています。また、石炭火力からのエネルギー転換を促進するため、生産性の低い炭鉱の閉鎖を進めています。この結果、2020年でみた中国のエネルギー消費に占める石炭の割合は57%まで低下しました。

こうした中で、エネルギー価格や鉄鋼、銅をはじめとする一次産品価格が急上昇しました。コロナ禍前の2019年1月と今年9月を比べると、天然ガスの国際価格は2.5倍、石炭は2倍、石油は1.5倍に上昇しています。金属価格も、9月以降ピークアウトしているもののコロナ禍前の水準を上回る状態が続いています。

 とりわけ中国経済に打撃を与えたのが世界的な需給逼迫による輸入石炭価格の高騰です。このため、中国は、モンゴル、ロシア、カナダ、アメリカ、インドネシアからの石炭輸入を増やすだけでなく国内の石炭の増産も余儀なくなれました。今年1-8月のロシアからの石炭輸入は前年同期1千万トン以上も増えました。しかし、洪水とコロナ禍が需給緩和の足を引っ張りました。山西省は中国国内の石炭生産の6割以上を生産していますが、10月初旬の大洪水により682箇所の炭鉱の1割に相当する60箇所の炭鉱が閉鎖されてしまいました。10月以降になると、内モンゴル自治区や、黒竜江省で新型コロナウイルスの新規感染者が発生し、11月末には境外感染が確認されたため、モンゴル、ロシアとの国境が閉鎖され、両国からの石炭輸入は足止めを食らうことになってしまいました。

 中国の電力料金は公共価格なので、エネルギー価格が上昇したからといって簡単に価格転嫁はできません。この結果、電力会社は、価格上昇分を電力産出抑制で調整しようとしたようです。これが電力不足の発端であると思われます。こうした事態を前に、経済・産業の司令塔である国家発展改革委員会は、10月19日、①石炭を9月比日量120万トン以上増産し1,200万トンを達成すること、②そのため、閉鎖されている炭鉱の操業再開を認める、③石炭価格安定のため、関係部局と強調し、石炭先物市場のある鄭州での投機的な行為を監視する一方、生産企業と電力会社による安定価格での中期供給契約の締結を促進すること、④石炭火力のみならず、水力、再生可能エネルギーなども動員し、冬場に向けての電力と地域暖房供給を確保すること、という指示を発出しました([xi])。これに先立つ10月12日には、電力料金の調整幅を上下10%から上下20%に拡大することにより、料金値上げが容認されています([xii])。

 秋口からの電力不足により、各地では電力消費が制限されました。広東省の東莞市では一部工場の操業が週末に限定されたようです。北京では国慶節のイルミネーション点灯が見送られました。山東省では、工業用ディーゼル発電機のレンタル需要が急増し、レンタル料金は今年6月の月6万元から10月には18万元と3倍に暴騰したといわれます([xiii])。また、電力多消費型のアルミニウム、マグネシウム、銅精錬業界に対しては、より厳しい電力消費制限か課されており、雲南省のマグネシウムやアルミニウム精錬工場の場合、10月から一カ月程度の操業停止が指示されたそうです。


 こうした電力消費の抑制により、中国全体の10月の電力消費の伸びは6.1%に留まりました。また、電力生産地区である西北地区から華北・華中地区への電力供給は20%近く増加、電力不足が深刻な東北から華北地方への供給は12%減少しました。また、華中から南方への送電も減少しています。華中地区は他の地域からの送電により電力をまかっているが、広東省などの南方地域は他地域からの電力供給の増援が行われていないようです。電力消費抑制措置が広東省などで厳しくなっているのも頷けます([xiv])。

 電力不足や一次産品・エネルギー価格の高騰は、生産者価格を押し上げることになりました。生産者出荷価格は、上述の事情から上昇傾向を続けてきましたが、電力不足が顕在化した9月以降、ついに10%を超えました。生産者の調達価格の上昇はこれを上回る17%に達しています。一方、消費者物価の上昇率は11月で2.3%に留まっています。生産側も、販売側も仕入れ価格の高騰を販売価格に転嫁できていないようです。消費が弱含みであるという事情もありますが、こうした状態は、確実に企業の収益を圧迫するでしょう。また、生産量そのものも減少を続けています。鉄鋼、セメント、自動車などは6~7月以来前年割れが続いています。


4.先行きの不透明感晴れず

 コロナ禍の出口が見えないこと、不動産業界の債務問題がどこまで広がり、物件価格がどこまで下落するか予測がつかないこと、資源・エネルギー価格の高騰が企業収益を圧迫していること、その結果、雇用や賃金の縮減も起こりかねないこと、といった不安が中国の経済、産業の先行きに影を落としているようです。

 「就地過年」の指示が各地で出されるようになっています。中国では春節を控えた1月頃から農民工の帰郷が始まります。今年は、それを控え、いまの居住地で春節を過ごそうというものです。全国各地で新型コロナ感染者が散発的に発生し、「ゼロ・コロナ」の状態には至っていないことや、オミクロン株の感染拡大が懸念されるためです。中国のワクチン接種率(2回接種)は12月12日時点で65.8%に達しています。2003年のSARS制圧と、昨年の武漢コロナ制圧で名を馳せた中国工程院鐘南山院士は、中国製ワクチン接種により集団免疫ができるのは、完全接種率を83%まで高める必要があると説明しています([xv])。衛生健康部は年末までにこの接種率を達成させたいと考えているようですが、一方で、各地の保険衛生担当者は、散発的に発生する新規感染者対策に追われており、感染者が発生した地区ではワクチン接種に全力投球できない状況にあるように見えます。


 冬場に入り、感染が拡大しやすい季節になっています。早期発見、早期報告、早期検査、早期治療という「四早」政策はまだ続きそうだ。オミクロン株の流入も12月14日に天津と広州で確認されており、ブースター接種の必要性も高まっています。検査と隔離が中国のコロナ制圧手段となっている理由について、中国CDCが11月24日に公開した報告書によれば、仮に、中国の対策がアメリカ型であった場合、一日あたりの感染者数は63万7千人、重症者数は同じく2万2千人に達すると推計され、その結果、中国の医療体制は完全に崩壊するというものです([xvi])。

 雇用と賃金にも縮減圧力が加わっています。12月には多くの企業で年末のボーナスが支給されます。今年、ハリーポッターを配信し、大ヒットさせた易網の担当チームのボーナスは月収の8カ月分に上ったそうです。しかしこれは例外らしく、騰訊の場合、非ゲーム部門のボーナスは火鍋用の電熱器とTシャツの現物支給だったとのこと。昨年は1台1万元のiPhoneが支給されたといってぼやく社員もいるようです。ボーナスを自社株で支払うということも今年は行われなかったようです。株価が今一つという事情もあると思われます。昨年の年末ボーナスは、IT業界の場合、評価が最低レベルでボーナスの支給がなかった従業員が8.5%、千元以下が23.1%、1万元以下が25.8%、5万元以上が2.8%だったといわれていますが、この格差は今年益々広がっているようです([xvii])。また、賃上げ状況を見ると、これも厳しい。国家統計局は、2020年の省別平均給与を11月28日に公表しましたが、その上昇率は、最も高い省(上海市の私営企業平均)で25%となっているものの、雲南省、海南省、天津市の市営企業は前年割れであり、山東省は前年並みに留まっています([xviii])。職種別では、教育がマイナス4.6%、公共施設管理がマイナス2.6%でした。特徴は、業種や地域によって賃金上昇率が大きく異なっていることです。情報通信関連の私営企業の賃金上昇率は最も高いものの、同じ業種の中でも賃金格差は拡大していると推測されます。2021年上半期の省別平均給与も公表されていますが、前年と比べ意味のある上昇は確認できませんでした。経済状況が厳しさを増す中、2021年の賃金上昇もまた厳しい状態にあることが推測されます。雇用についても、失業率は昨年の5.6%から今年の第三四半期には低下し5.2%となっていますが、これは2019年と同水準であり、2018年よりも0.3ポイント高くなっています。新規就業者数は1-3季で1,045万人ですが(1-10月では1,110万人に微増)、秋口からの景気状況を勘案すると通年でコロナ前の1,352万人に届くかどうか。


おわりに~意欲満々の蘇州

 中国経済全体を見渡すと、「三つの圧力」が解消されるには一定の時間がかかると予想されます。サプライショックの影響は、来年前半一杯続く可能性もあります。「ゼロ・コロナ」政策からの出口戦略もまだ見えていません。ただ、中国経済のコロナ禍からの回復が、あまりにも迅速であったことが、「三つの圧力」を誘導してしまった面もあると思います。中国以外でコロナ禍前の経済水準に回復しているのはアメリカです。EU経済がコロナ禍前のレベルに戻るのは来年第一四半期頃と見込まれます。そのアメリカで起こっているのが6.8%というインフレです(11月)。このため、連邦準備委員会は、金融引き締めを前倒しで実施する意向を固めていると言われます。中国人民銀行は、「三つの圧力」緩和のため、慎重に金融緩和政策を進めていますので、米中は真逆の動きになっています。アメリカの金融引き締めは高止まりを続ける人民元を安値誘導することにより、中国の輸出を拡大する可能性もあります。

 12月、中央経済工作会議が掲げたのが「隠中求進」というスローガンです。「三つの圧力」を緩和する中、次の発展・拡大戦略を地道に実施してゆこうという戦略です。この戦略の最前線にあるのが蘇州であると思います。今年第三四半期、蘇州の製造業付加価値総額は3兆元を突破しました。4兆元となるのも指呼の間です。蘇州は、深圳、上海とならぶ三大製造業都市ですが、蘇州の強みは市内16万社にのぼる製造業企業が、ほぼあらゆる分野にまたがっているという「総合力」があること、そして、これら企業の本部の多くが上海に立地しており、実質一体となって運営されていることです([xix])。また、製造業というと「作って売る」というイメージが強いですが、蘇州市は、これに開発とアフターサービスというスマイルカーブの両端を加えた新たな製造業発展のモデルを推進しています。このように見ると、蘇州市が製造業都市全国ナンバーワンの座に上り詰める可能性は多いにあると言えます。

 こうした製造業を核とし、これを「サービス型製造業」に進化させてゆくために必要なものはなんといっても高度な人材を集めることです。各省の大学数を見ると、最も多いのが江蘇省です。江蘇省内で最も大学が多いのが南京、ついで蘇州となっています。しかし、国内の一流大学と海外の一流大学と提携した大学でみると、蘇州市は20校におよび、全国では深圳について第二位となっています。また、蘇州市は積極的に精華大学、北京大学、あるいは上海交通大学といった超一流大学と提携し、市内に研究開発センターを設けています。省レベルのエンジニアリング・テクノロジー研究センターはすでに1,193箇所設けられていますが、これは全国一です([xx])。


 蘇州市の1-11月の工業生産額の伸びは18.2%、消費の伸びは19.4%に達しています。いずれも、全国平均を大きく上回っています。「三つの圧力」は無論蘇州にも発生していますが、それをはねのけるだけの強靭さを蘇州は示していると思います。

 今年一年間、ご愛読ありがとうございました。皆様、良いお年をお迎えください。

(上場 大)


[i] 为什么说共同富裕的核心是教育公平?2021-12-20每日经济新闻

[ii] 络买菜平台送菜员摔伤,向谁主张工伤待遇? 2021年06月27日 08:06   来源:扬子晚报   

[iii] 中央经济工作会议:经济发展面临需求收缩、供给冲击、预期转弱三重压力,强调“稳字当头、稳中求进” 2021-12-10每日经济新闻

[iv] 深圳也有“奔驰/特斯拉买房就送”,临近年底,开发商的焦虑症越来越重2021年11月17日每日经济新闻

[v] 全国已经有21城发布了“限跌令” 绝大多数都是三四五线城市 2021-11-14第一财经

[vi] 多城楼市“金九”遇冷:中秋小长假销量大跌七成,短期内或延续降温态势2021-09-23每日经济新闻

[vii] 前10月“碧万融保”合计销售额超2万亿元,超八成百强房企10月业绩同比下降2021-11-01每日经济新闻

[viii] 2022国家公务员考试扩招21% 与往年有什么不同? 2021-10-20 公考观察

[ix] 近30万年轻人加入“不买组”,也是一种“理性清醒”2021-11-10 编辑:徐秋颖

[x] 第13个双11了 还没看清这些套路?中消协点名:小心买到“全年最贵” 2021年11月04日每日经济新闻

[xi] 国家发改委:进一步释放煤炭产能,严厉查处资本恶意炒作动力煤期货2021年10月19日 21:38每日经济新闻

[xii] 重磅!国家发改委:有序放开全部燃煤发电电量上网电价2021年10月12日 11:26每日经济新闻

[xiii] China power crisis sparks rush for generators from factories October 12, 2021, FT

[xiv] 2021年1-10月份电力工业运行简况2021-11-19中电联统计与数据中心

[xv] 钟南山:中国疫苗接种率达83%后有望“群体免疫” 2021-12-12人民网

[xvi] Perspectives: On Coexistence with COVID-19: Estimations and Perspectives, November 24, 2021, Yuan Zhang, Chong You, Xin Gai, Xiaohua Zhou, China CDC Weekly

[xvii] 降级的大厂年终奖:去年一台华为手机,今年文化衫加自热火锅2021-12-11来源:澎湃新闻

[xviii] 31省份平均工资出炉:北京平均年薪最高,上海、青海涨薪快2021-11-28中国经济网

[xix] “最强地级市”冲击“工业第一城” 2021年10月18日 23:59每日经济新闻

[xx] 苏锡常通,都在“造大学” 2021-11-23每日经济新闻

著者 上場 大 

1955年生。一橋大学卒後、銀行勤務を経てメーカーに転じる。現在中国ビジネス関連のコンサルティングを行う。主な著書に「中国市場に踏みとどまる」(草思社)。日経ビジネスオンラインで「中国羅針盤」を連載。中国とのお付き合いは17年に及ぶ。